長い年月を経て継承されてきた日本の伝統行事は時代とともに形が少しずつ変化してきています。しかしその中に込められた人々の願いは今も変わりません。 これからも現代のライフスタイルに合わせた形で取り入れ大切に守り続けていきたいものです。
昔からお正月はその年の新しい神さま(年神さま、お正月さまとも呼ぶ)をお迎えし豊作を祈願した最も重要なお祭りでした。
今でもお正月行事は元旦から1月の中ころまで続き、1年のうちで最も長い期間にわたる祭事であることから、
長い年月を経て大切に受け継がれてきたことがうかがえます。旧暦から新暦になり時代とともにお正月の形も少しずつ変わってきましたが、
1年間の無事と平安を願う気持ちは昔も今も変わりはありません。
かつては一家の家長が大みそかの夜から元旦の朝にかけて神社にこもって参拝する風習があり、これが初詣の起源とか。
今では除夜の鐘が鳴り終わるのを待ってお参りするのが一般的です。まず手水所(神社の境内にある手や顔を洗う水場)で手と口を清めます。
神前では賽銭を入れ、礼を2回、拍手を2回、最後に礼を1回します。通常初詣では松の内の7日までに済ませます。
お正月のお飾りは年神さまを気持ちよくお迎えするためのものでそれぞれいわれがあります。
鏡餅は昔はとても貴重な食べ物だったお餅を初うすからとって年神さまにささげたことに始まります。
名の由来は平たい円形が当時の宝物であった鏡に似ていたからという説がありますが、神にお供えすることからお供え餅とも呼ばれます。
餅つきは年の瀬の28日までに済ませるのが習わし。というのも29日は「苦をつく」といって避けていたのです。
今では密封パックされた鏡餅が出回り自宅でお餅をつくことはほとんどなくなりましたが、昔のいわれにならい一般的には28日までに飾ります。
正式な飾り方は、奉書紙か半紙を敷いた三方にシダの一種である裏白(うらじろ)と譲葉(ゆずりは)(トウダイグサ科・厚手のだ円形の葉)を置き、お餅をふたつ重ねた上に橙をのせて昆布と四手を前に下げます。
あしらうものはそれぞれ意味をもち、例えば裏白は「長命」、譲葉は「家系を次に譲って絶やさない」、橙は「家が代々栄える」などです。
簡単にするなら塗り盆などに紅白の紙を敷き、お餅を重ねた上に葉つきみかんをのせるだけでも十分です。
メインのお供えのほかに、できれば小さな鏡餅も用意して玄関やキッチンなどにも飾ります。
注連縄(しめなわ)は昔から神社や神棚に張りめぐらして神を迎える清浄な場所である印として用いられていました。
それがお正月に家々の門前に張って年神さまを迎えたのがお正月の注連縄飾りの起こり。一文字飾りのほかに、ごぼう注連、大根注連などがあります。
鏡餅と同様の意味から注連縄に裏白や譲葉、橙などの縁起ものをあしらったのが歳の市で売られる注連飾り(玉飾りともいう)です。
通常は玄関の軒下につるしますが、マンションなどではドアの正面に。また自家用車に小さな注連飾りをつけて1年間の無事故を祈る人も多いようです。
注連飾りをもっと簡略にしたのが輪飾りです。こちらは門松の枝にかけたり、勝手口、水道の蛇口、居間や子ども部屋など各部屋に飾ります。
門松のいわれも古代にさかのばります。大昔の人は松に限らず榊や椿など常緑樹に神が宿ると信じて家の門口に木の枝を立てていました。
おめでたい木として松が定着し、現在のような形で普及したのは明治以降です。
3本の竹を中心に松や梅、笹の葉をあしらって荒縄で結ぶのが伝統的な飾り方ですが最近ではこのような格調高い門松は減り、
松の小枝を半紙で巻いて水引を結んだものが一般的になっています。
餅つきと同じように門松を29日に立てるのは「苦立て」といって嫌い、また大みそかに立てるのも「一夜飾り」といって避ける風習があります。
これは慌てて立てては神さまに対して失礼という意味と準備の悪さを戒める言葉ともいわれています。
お屠蘇(おとそ)とはもともと山椒、桔梗、肉桂皮、白朮、防風など数種類の薬草=屠蘇散をしみ出させたお酒のことです。
お屠蘇を飲む習慣は中国から伝わり、邪気をはらい寿命が延びるお酒とされ宮中の儀式として受け継がれてきました。
やがて庶民の間に広まり1年の無事を祈るお正月の風習としてすっかり定着しました。
通常元旦の朝、家族一同が新年のあいさつを済ませたあとに年の若い人から順に家族全員がいただきます。若い人から飲むのは年長者が若者から若さをもらうという意味がありました。
お屠蘇は屠蘇散を日本酒またはみりんに浸して作ります。屠蘇散は暮れになると薬局やデパートで売られています。ティーパック式になっているものもあるのでこちらを使えば便利です。
作り方は日本酒または日本酒とみりんを合わせたものの中に屠蘇散をつけそのままひと晩おきます。
日本酒とみりんの割合は半量ずつを目安に好みで加減してください。子どもたちにはジュースで割ると飲みやすく梅酒などの果実酒をベースにすると口当たりがよくなります。
正式には水引をかけた錫の容器から3段に重ねた大・中・小の朱塗りの杯にそれぞれ注いで各杯を1回ずつ合計3回飲み回します。
特別な器がない場合は、とっくりに水引を結んでおめでたい演出をするだけで十分に雰囲気が盛り上がります。
おせちとは御節供を略した言葉で、もともとは神さまにささげる供物全体をさしました。
その後、節供=節句の中で最も重要なお正月の料理にその名が残ったといわれています。
おせち料理を年末のうちに用意しておくのは「せめて三が日は主婦も休めるように」という心遣いからとよくいわれていますが、
本来は「年神さまをお迎えするときなので物音を立てたり煮炊きするのを慎みましょう」という意味だったそうです。
昔ながらのしきたりにならえば、五段重ねの重箱の一の重に昆布巻きや田作りなどの口取り、二の重にブリ・エビなどの焼き物、
三の重にハつ頭・こぼうなどの煮物、与(よ)(四は死に通じるので避ける)の重に酢の物を詰め、五の重は予備の料理を入れておきます。詰め方は5品、7品と奇数で盛りつけます。
今では三段重ねが一般的なのですが肝心なのは祝い膳にふさわしいことです。重箱や料理の数にこだわらず彩りよく盛りつけましょう。
地方によりいろいろなおせち料理が伝承されていますが、どの地方でも欠かせないのは黒豆、田作り、数の子。豊作と家の繁栄を願う縁起物でこの3種を三種肴(さんしゅこう)といいます。
洋風や中華風の料理を中心にした現代風おせちにもぜひプラスしたいものです。
お正月のお膳にはしなやかで強い柳で作られた箸=柳箸を使うのがしきたり。両端が細くなっているのは一方は神さまが召し上がるという意味です。